DTMレコーディングへの道『モニタースピーカー探しの旅編』

DTMビギナーが、ひと通りの機材を揃えて、様々なスピーカーの音を聴き比べる企画のための機材選びも、いよいよ終盤です。

マイク探しから始まって、オーディオインターフェイスと続き、今回はモニタースピーカー選びです。

日頃、鑑賞用のラグジュアリーにチューニングされたMID-Fiスピーカーを取り扱う身として、DTM用の音を評価したり、確認するためのスピーカーの違いや、選んだ理由などが伝わればいいかなと思います。

 

そもそも私の求める「録音」とは再現性の追求で、マイクで収録した音を正確に再現することが目的ですので、それを叶えるために、最も適したモニタースピーカーが必要なのです。

そこで、まずは私がモニタースピーカーを選ぶにあたって、必要とされる要素が以下の4点です。

 

●フラットな特性であること

●高解像度であること

●定位が良いこと

●原音に忠実で色付けがない

 

それではこの4つの要素について、簡単にひとつずつ説明していきます。

 

 

フラットな特性であること

フラットな特性というのは、 低音から高音までが全ての周波数で均一に再生されるということで、その結果、音量グラフが平坦(フラット)になるということです。それでは何故、フラットな特性が良いのか?

それは、スピーカーに変に味付け(演出)をせず、より原音に近い音を再現するよう調整されていて、原音を確認したり、ミックスをして表現したい音を作るのに向いているからです。

ただし、フラットなスピーカでも、部屋の環境によって妙なピークやディップが生じてしまうので、設置場所や環境に大きく影響されるのも事実です。

 

※ピーク:ある音程(周波数)が強調されてしまうこと。
※ディップ:ある音程(周波数)が弱くなること。

 

 

高解像度であること

スピーカーの解像度が高いということは、音の細かい部分まで再現できるということ。そのため音が立体的で奥行きを感じることができます。

例えば、各パートをそれぞれ個別に収録する重ね録りの場合、空間的な繋がりが無いので、楽器間の距離感が感じられず、広がりの無い平面的な音になりがちです。

そこでリバーブを使って、立体的で自然な奥行きを補うのですが、このリバーブテール(音の余韻)が消えて行く間際までしっかりと聴こえる高解像度なスピーカーが、空間処理のきめ細かさを把握するのに役立つのです。

まあ、私は重ね録りはしないのでリバーブも殆ど使いませんが、どのような録音状態であったとしても、より実際の音に近い再現性を実現するには、高解像度のスピーカーは必須ですね。

定位が良いこと

よくスピーカーの「定位が良い」という言葉を聞きますが、この定位とは、複数の音の出所の位置関係のこと。

よって「定位が良い」というのは、ボーカルや、ギター、ベース、ドラムなどが発する音が、どこから聴こえてくるか解りやすいということです。ボーカルやドラムのキックなどは真ん中から聴こえるというのが一つの目安です。

実際に音の出る位置の違いについては、聴いている人の耳に伝送される音が僅かにズレる事で、人はその音の位置を把握するわけです。

そのため、定位が良いスピーカーであれば、音の速度などを正確に再現でき、各パートを綺麗に処理できて空間の立体感がより鮮明に表現できるのです。

俗に言う、音場が広いとか狭いとかの空間ボリュームも感じやすくなります。

 

 

原音に忠実で色付けがない

これは言葉の通りで、鑑賞用のスピーカーのように聞き手にとって、人為的に心地よく迫力のある音作りに頼らないで、できるだけ原音に近く再現する事で、制作者の表現したい音を、そのまま確認するために必要ということ。

 

と、これら4点が、モニター(確認用)スピーカーにとって必要な要素です。

こうしてみると、モニタースピーカーは音の粒を正直に拾って、そのまま再生するのが目的とされているので、鑑賞用として長時間聞くと情報が多すぎて疲れてしまいます。

そのため、モニタリング用と鑑賞用と、それぞれに適したスピーカーが存在するのです。

では、この4点を踏まえて実際にスピーカーを選んでみます。

 

 

 

 

スピーカー選びの3つのポイント


実際にスピーカーを選ぶにあたり、どういった環境に設置するのかがとっても大事です。その上で、スピーカーのサイズ、スピーカー同士の距離、スピーカーとのリスニングポイント。とこの3つがバランスされなければ、いくら高いスピーカーを買っても、そのポテンシャルを味わうことができません。

この3つのポイントの中で、まず最初に決めるのは、リスニングポイント(スピーカーと実際に聴く位置)です。

mぐらい離れて聴くのか、それとも卓上で聴くために1m以内なのか、を決めましょう。

私の場合、卓上でモニタリングするためのスピーカー選びなので、80cm 程度ですかね。

 

リスニングポイントが決まったら、次はスピーカー同士の距離ですね。

部屋の端々に設置するのであれば4~5mくらいでしょうか。

DTM用の卓上使用の場合は、せいぜい80cm~1.5mぐらいですかね。

こうしてみると、卓上の場合ですとリスニングポイントと、左右のスピーカー同士の距離は大体、正三角形のような感じになりますね。

昔からスピーカーのリスニングポイントは正三角形が理想と言われてきました。

これは、スピーカーは正面が最も周波数特性良くて、大体60度くらいの角度で出力することを考えると、リスニングポイントの両耳の位置から、それぞれ左右に30度のところにスピーカーが配置されることになり、高音から低音まで理想的な音を聞くためのベストポジションということです。

そのため、スピーカーの角度をあまり内側に振らなくてもいいので、見た目にもスマートでかっこいいですよね。

そして最後に、スピーカーのサイズですが、その設置距離で出力(ボリューム)を50%くらいにできる、ボディサイズのスピーカーが適しているようです。

 

 

 

スピーカー候補

そこで、今の環境と目的(各スピーカーの音の違いを、WEB上でお伝えするために録音して比較する)に合ったスピーカーを実際に視聴してみて、音質と機能、デザイン面から下記の4台に絞り込みました。

 

  1. ADAM A5X(アダム/ドイツ)

  2. EVE Audio SC204(イブ・オーディオ/ドイツ)

  3. GENELEC 8020D(ジェネレック/フィンランド)

  4. YAMAHA MSP5 STUDIO(ヤマハ/日本)

 

では、ざっくりとそれぞれのスピーカーの特徴を記しておきます。

 

1. ADAM A5X ¥46,170 / 1台(税込実勢価格)

DTM業界の定番モデル。5.5インチのミッド・ウーファーと、秘伝のX-ART技術リボンツイーターによって、プロフェッショナルの高い要求をカバーしてくれる、ミドルクラス高性能モニタースピーカー。また、中低域が厚くパンチの利いたサウンドが持ち味で、エレクトロ、EDMなどの打ち込み系のアーティストの愛用者も多い機種です。周波数特性がとても広域なのも魅力的です。

粒立ちのいい輪郭のはっきりと感じられる音でしたが、上位モデルのA7Xとの音質差が大きく、A7Xを聴いてしまうと物足りなく感じます。

リリースから既に8年が経過しているロングセラーモデルです。

周波数特性:50Hz ~ 50kHz (-3 dB)

 

 

2. EVE Audio SC204 ¥34,020 / 1台(税込実勢価格)

ADAM社の元CEOが、2010年にベルリンで創立したEVE Audio。

4インチのウーファーは、雑味のない透き通るような心地よいサウンドで、高域の緻密なディティールの再現性とパワフルでタイトな低域が特徴のとってもバランスの取りやすいモデルです

また、高い完成度を誇るDSPのデジタルアンプを搭載することで、ユーザーが使用環境に合わせて細かくチューニングできて、左右のユニットが完全に同じ状態にセッティングできるのが特徴です。実はこの環境に合わせたチューニングというのは、地味ですが原音の再現性の本質として、とても重要です。

デジタル処理を行うEVE Audioの独自特許技術のAMTエア・モーション・トランスファー )リボン型ツイーターは、反応スピードが速く、周波数ピークが出にくいというのも良いですね。

独自DSPということもあって、サイズの大小は音圧と低域以外、ほとんど感じないのは、限られた環境では嬉しいこと。

2012年の発売から、今年で6年目なります。

 

周波数特性:64Hz ~ 21kHz (-3 dB)

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3. GENELEC 8020D ¥59,400 / 1台(税込実勢価格)

 1978年に創立した、モダンなフォルムが特徴のフィンランド発の老舗モニター・スピーカー・ブランド『GENELEC』。スタジオモニタースピーカーの大定番として、エレクトロニック・ミュージック・プロデューサーの愛用者が多いことでも有名です。

4インチのウーファーを搭載し、1台にクラスDアンプを2基内蔵したバイアンプ構成の2ウェイ小型モニタースピーカーとして、ツイーターとウーファーを別々にドライブさせ、DSP技術がそれをきめ細かく制御することで、色づけのない素直な音を再現してくれます。まるで無色透明な感じです。

また、設置用にゴム足がついているので、インシュレーターを噛ませる必要がないのも便利です。

音質がとってもピュアですが、金属の躯体のせいか、少し硬い感じに聴こえました。

2017年5月にモデルチェンジされたばかりのブランニューモデル。

 

周波数特性:56Hz ~ 25kHz (-6 dB)

 

 

 

4. YAMAHA  MSP5 STUDIO ¥25,250 / 1台(税込実勢価格)

1978年に発売され、長きにわたり「ビッグベン」や「テンモニ」の愛称で、モニタースピーカーの定説を築き上げてきたYAMAHA『NS-10M』。

その信頼の技術を踏襲した最新モデルMSP STADIOシリーズは、すでにモニタースピカーの王道として、多くのDTMファンに愛用されているモニタースピーカーの定番モデル。

その中でも、卓上用のニアフィールドとして最適なサイズが『MSP5 STADIO』。

12cmウーファーと2.5cmチタンドームツイーターを搭載し、解像度が高くボーカルやギター、ベースにドラムなど、それぞれの各パートの定位がとても把握しやすい、立体的なサウンドが特徴です。

とにかく迷ったらこれ。という癖のないフラットなスピーカー。

特徴がないのが特徴と言うべきか、デザインも含め、無害無色無臭と言う感じでしょうか。あまりにも抑揚がなさすぎて、ちょっと物足りない感じです。

2006年のリリースから12年間の超ロングセラーモデルです。

 

周波数特性:50Hz - 40kHz (-10 dB)

 

 

 

結局選んだのはこれ

この4台を実際に聴き比べてみて、原音に忠実な再現性の高さと、環境におけるセティングの容易さを考慮して決めたのが、EVE Audio 『SC204』。音質的にもニアフィールドながら低音がタイトだし、ローをしっかりモニターできるというのも決定に至った大きな要因です。

でも、やっぱり、音が私好みだったっていうのが一番かな。

だって、結局のところ専用スタジオでないと、モニタースピーカーの持つポテンシャルを全て発揮することなんてできないし、一般的な部屋で使用する場合は、ある程度性能のいいスピーカーを買って、環境として足りないところをスピーカーに補ってもらうしかないですから。

だから、ある程度フラットで、音の分離が良くて解像度が高く、定位がわかりやすいスピーカーで、使用環境に合ったセッティングが簡単にできるタイプのスピーカーが、最終的には精度の高いモニタリングができるのではないでしょうか。

 

そう考えると私の場合、ロック系が多いこともあって、EVE Audio 『SC204』の一択かなと。

デザイン的にも素材的にも、クラシックな要素とハイテックな要素が組み合わされた、ハイブリッド感がかっこいいですね。

AMTリボンツィーターのメッシュカバーは、マグネットで脱着式

 

AMTリボンツィーターは、レスポンスが非常に良く、とても立体感のある高域を再現できて、その上、レゾナンスを持たないので、メタルドーム式ツイーターに比べて、周波数ピークが出にくいというメリットがあるのです。

 

 

ウーファーはオリジナルのハニカム構造

 

低域でのタイトでパンチのある音圧感がありながら、独自DSPのおかげでディストーションも皆無なので、低域のブーミーさを感じませんし、丸くて綺麗な低域が出るのが私好みです。

それに普通は、ボリュームを絞るほど低域が抜けがち(弱くなる)ですが、DSPのおかげでボリュームを絞ってもバランスが崩れず、しっかりタイトな低域が聞こえるのがデジタルアンプの良いところ。

 

 


背面バスレフ方式

 

バスレフ方式のスピーカーにありがちなボワっとした低域ではなく、低域の輪郭が見えやすいのですが、ただ、中域が若干引っ込んでいるような気がします。

 

 

 

インシュレーター


audio-technica オーディオテクニカ
AT6098 『ハイブリットインシュレーター(8個1組)』¥2,460(税込)

 


DTMの場合、その名の通りデスクトップにスピーカーを設置するケースが多いので、左右のスピーカー同士が発する共振動が、悪影響を与えてしまい解像度の低下につながりますので、スピーカーの下にインシュレーターを噛ませることをオススメします。

私の場合ど定番の、オーディオテクニカのハイブリッドタイプを使用しています。

 

また、インシュレーターもその置く位置によって、スピーカーの音質が変わりますので要注意です。

スピーカーの端に置くと低域と高域が強調され、逆にスピーカーの内側に少し引っ込めて置くと中音域が強調されます。

EVE Audio SC204は、どちらかというと中音域が気持ち引っ込んでいるので、インシュレーターは内側に入れています。

 

3つのデジタルフィルター「High」「Low」「Desk」

 

EVE Audioの特徴であるデジタルフィルターは、「High」「Low」「Desk」と3つの種類があり、

「High」は、壁面近くに設置した場合に生じる、低域ブースト効果の対策に有効です。

「Low」は、リスニングポジションの距離に合わせた調整や、部屋の反響によるレゾナンス効果の対策に有効です。

「Desk」は、スピーカーをデスクトップに設置した際に生じる無駄な共振も防ぐ事ができて、音のこもりや定位感の分かりずらさを解消するのに有効です。

 

この3つのデジタルフィルターを調整することで、使用環境に応じた最適な音を実現できるのが、ビギナーの私にとって、とても便利でありがたい機能なのです。

 

        

作業はもっぱらMac Book Airでやっているので、後ろのiMacは使っていません。
それに生録音だけだから、シンセも要らないのでシンプルなセッティングです。

 

 

 

まとめ

スピーカー選びで人それぞれ好みが分かれるのは、やはりスペックよりも音が自分好みだったり、聞き取りやすかったりというのが、結局のところスピーカー選びの最大のポイントだったりします。

そもそも好きではない音を聞きながらの作業なんて、モチベーションだって上がりませんし、その結果良い作品も生まれませんよね。

今回、ネイビーズが正規輸入代理店として取り扱う多くのスピーカーを、DTMで収録して動画でアップし、皆さんに極力原音に近い状態の音を聞き比べてもらおう!という企画として、素人ながらDTM環境を整えてきました。

そこで最も感じたことは、音というものに正解(本当の音)はないということ。

音は、人が聴いて判断したり感じるものなので、どうしたって、その人の好みや主観が影響してしまいます。

だから、音の味付けは料理の味付けと同じで、こってり味が好きな人もいれば、さっぱりした塩味が好きな人もいるし、スパイスの効いた刺激的な味が好きな人もいます。どれも好みの問題ですが、大事なのはいつ食べてもその味が同じだってこと。

まあ、私のようになんでもマヨネーズをかけて、元の味の片鱗さえも消す者には、味のなんたるかを語る資格なんてないのですが......

 

マヨネーズ最高! 
ミシュランなんて、所詮ゴムじゃやないか! 

もはや味付けの問題なのか、素材の問題なのかすら、解らなくなることもしばしばです。

 

でも、これで概ね機材が揃ったので、これから少しずつスピーカーの音の違いを聴き比べていきたいと思います。

興味があれば是非聴いてみてください!

 

 

ぶん / Noboru