映画「はじまりのうた」を観て

最近巷で噂のなんともスリリングな映画「カメラを止めるな!」。

題名からして、何か起こりそうな予感がプンプンするこの映画、元々とってもインディペンデントな作品。

でも、口コミで広まり上映館数もぐんぐん増えているのだとか。

時々、こういったインディペンデントな映画が脚光を浴びて、メジャーになるというのが映画の醍醐味でもありますよね。

今回紹介する『はじまりのうた』(原題 / BEGIN AGAIN)もそんな映画のひとつ。

2014年6月の限定公開当時は、全米でわずか5館での上映が、口コミで人気を博し1,300館にまで広がったという音楽映画。

同時期に公開された超大作の『トランスフォーマー/ロストエイジ』を抜き、スクリーン・アベレージ第1位を獲得!という快挙を成し遂げたドリーミーな作品。

そんなモンスター映画をすでに観たことのある人もきっと多いはず。

だから、あらすじとか映画の内容というより純粋にかっこいいな。と感じた点などをいくつか紹介したいと思います。

 

 

キャスティング

監督は、前作のアカデミー賞受賞『ONCE ダブリンの街角で』で世界的に注目を集めたジョン・カーニー

主演は、「パイレーツ・オブ・カリビアン」でお馴染みのキーラ・ナイトレイ【グレタ役】。

と、「アベンジャーズ」のマーク・ラファロ【ダン役】。

助演として、グレタの恋人役のアダム・レヴィーン【デイヴ役】。あのマルーン5のボーカルで、今作品が映画初出演とか。

でも、そのナチュラルな演技は、控えめなんだけどやっぱりアーティストらしく輝いていました。

こんなとてもインディ映画とは思えないキャスティングなのも、この映画がヒットした理由のひとつに違いありません。

 

 

 

概 要

さて、舞台は、ニューヨーク。

恋愛、家族、仕事、夢‥‥ 様々な問題に悩みながら生きている人々が、音楽を通じて運命を切り開き、新たな一歩を踏み出すきっかけをドラマチックに描写した作品。

何よりこの映画の特徴は、ニューヨクーの空気感を見事に表現しているところ。

舞台となるロウワー・イーストサイドや、イーストビレッジ、ブルックリンのウィリアムスバーグに、お決まりのタイムズスクエアなど、アーティーさとヒューマンさが混在したニューヨークの今が描写されていて、単なるオシャレな映画にしていないから大人も楽しめます。


映画のロケーション(公式サイトより抜粋)

 

ここに出てくるニューヨークの風景は、ジョン・カーニー監督が憧れの街を詳しく知るため、自ら自転車に乗ってニューヨークを走り回ってロケハンしたんだって。

だからほかの映画では見ることができないイキイキとした表情を見せているのも頷けるところ。

そして、音楽映画だけに劇中の挿入歌や、音楽の持つ親和性を自然な感じで表現しているのにも脱帽です。

それもそのはずで、ジョン・カーニー監督は、かつてはアイルランドのロックバンド、ザ・フレイムスのメンバーだっただけに、相当音楽にこだわった作品というのは誰の目にもわかります。

音楽映画って、音楽の持つミラクルさを体現しないと、決して描けないですからね。

 

 

 

この映画の一押しは?

ここからは、なぜ私がこの映画をご紹介したいのか、どんなところが良いのか、どこが素敵だなと思ったのかなどを紹介したいと思います。

1.コンセプトがかっこいい

まずは、路地裏や、地下鉄、ビルの屋上、公園など、ニューヨークの街の至る所でライブ録音してアルバムを製作するという、奇想天外でコンセプチュアルな発想が最高にクールです。

路地裏ででのレコーディング

 

ビルの屋上でのレコーディング

 

地下鉄でのレコーディング

 

名もなきシンガーソングライターと落ちぶれた音楽プロデューサーが出会い、レーベルと契約を結ぶためにデモテープが必要だが、お金がないので敢えてニューヨークの街中でゲリラ・ライブレコーディングを敢行。

都会の喧騒までもハーモニーに変えて、"美しくイカれたニューヨークを称えるるアルバムを作る" というブッ飛んだコンセプトがホントにカッコいいと感じました。

 

 

2.ふたりで聴くプレイリスト

次に挙げるのが、劇中グレタとダンがお互いのプレイリストを、スプリッター(二股イヤホンジャック)で一緒に聴きながらニューヨークの街中を散歩するシーン。プレイリストを見せ合うのをためらうグレタに、ダンが「プレイリストで性格がわかる」というセリフが、妙にリアリティーを感じます。

25歳以上も違うふたりが、それぞれのプレイリストを聴きあうっていうのも、ジェネレーションギャップがあって面白そうだけど、実際には相手に興味がないと他人のプレイリスト聴いてもつまんないよね、きっと。

プレイリストの楽曲って写真と同じように、その曲に関わる自分にとっての思い出があるしね。

でも、いずれストリーミングになって、自分だけのオリジナルプレイリストって無くなるんだろうな.....
ちょっと寂しいです。

 

因みに二人で同じ曲を共有することは、MarshallやURBANEARSのヘッドホンのお家芸なので持っている人は試してみてください。スプリッターもいりません。


Marshall Major Ⅱ Bluetooth

 

こうやってふたりで同じ音楽を聴きながら映画のように散歩すると、あなたの隣人ともっと仲良くなれるかもです。

まあ私の場合、一度も試せるチャンスがないので信憑性はゼロですけど....

 

 

3.挿入歌が素晴らしい

劇中の挿入歌は、さすが音楽映画だけあってアウェイサム。

ヒロイン、グレタ役のキーラ・ナイトレイのボイスが切なくて、恋人のデイヴ役のアダム・レヴィーン(マルーン5ボーカル)の高い声が感情を高ぶらせるという、ここでもコントラストを意識したような劇中歌が、この映画をただの恋愛モノ映画にしないで、アーティーに感じるところ。

さらに、ふたりのプレイリストとして流れる楽曲も懐かしく、フランク・シナトラやスティービー・ワンダー、映画「カサブランカ」でドゥーリー・ウィルソンが演奏した「As Time Goes By」と、まさに新旧のアメリカを表すのにぴったりな選曲にもしびれます。

 

 

 

4.マーケティングでは曲は生まれない

もう一つは、グレタが、レーベルの社長から、「いくつかのリミックスとPRをすれば売れるだろう。でも、それを望むか望まないかは君次第だ」と高圧的なプレッシャーをかけられるが、グレタは、自分達だけでCD制作をしたのだから制作費はかかっていない。

それにリミックスもしないし販売はネットだけ、さらにPRも口コミだけにするから、ロイヤリティーもイーブンにしたいと一歩も譲らない。これにはレーベルの社長もしどろもどろ。

そこでグレタが言った「欲がないほうが勝つのよね」というセリフ。

売れ線を作ることで儲けようとするレーベルと、本当に伝えたいことを作品に込めて発表したいアーティスト。どうしたって相容れない一線があるけど、大勢に影響されず、いわゆる「売れ線」を目指さないアーティストの意思を尊重した本質的なメッセージを伝えることこそが本当のパワーになるということ。

アーティストとオーディエンスが直接繋がるシンプルでダイレクトなネットマーケットが、いかにも今っぽくて親近感が湧きます。

 

 

5.画が美しい

映画の画作りの明暗が、都会のクールさと、ヒューマンな温かさのコントラストを見事に解像していて、ニューヨークの気温や、匂いまでもが感じられるロウワー・イーストサイドやブルックリンなどの映像が素敵だなTO感じます。

そう、ソール・ライターのような色味っていうのかな、どこか懐かしさを感じさせるこの映画の色味やコントラスがいいなと思います。

シャープすぎず適度にザラつきがあって、色の被り具合も個人的に大好きです。

 

 

6.ジャガーMk.X 

ダンが乗っているビンテージジャガーは、1963年式Mk.X(マーク10)。

どうやらジョン・カーニー監督が好きでこの車をセレクトしたみたい。

50年以上も前の車なのでそれなりにくたびれているけど、ブラックペイントされたボディに、ホワイトリボンタイヤとブラックホイールという組み合わせも、この映画らしくクラッシック・モダンとしてのコントラストを醸し出しています。こういう細かい演出が上手いよね。

ビンテージジャガーを敢えて少しモダンに振ってるのも、如何にもニューヨーカーっぽくて、そうそうって感じ。

 

 

 

おまけ

こんな素晴らしい映画なんだけど、エピソードがあって、監督のジョン・カーニーが、キーラ・ナイトレイについての強烈な批判が興味深いです。

ジョン・カーニーは、キーラ・ナイトレイがモデルとしての一面を拭い去れず、ソングライターの役を演じきれなかったことについて、

「キーラをけなしたくはないけど、映画俳優になるのはハードなことだし、ある一定の正直さと自己分析が求められる。彼女はまだその準備ができていないと思うし、少なくともあの映画ではできていなかったよ」

「もう“スーパーモデル”とは一生仕事したくない」

とまで言っています。

映画を観ている側としては、キーラ・ナイトレイのギターの演奏が多少ぎこちなく思えた程度で、キーラ・ナイトレイの演技を決してそんな風に感じませんでした。

でも、ジョン・カーニー的にはもっとリアリティを出したかったようですね。

 

 

 

まとめ

音楽の素晴らしさ

この映画で音楽について再認識したことがあります。

それは、ダンのこんなセリフから。

 

「平凡な風景が意味のあるものに変わる」

「陳腐でつまらない景色が、

   美しく光り輝く  真珠になる」

「音楽でね」

「音楽は魔法だ」

 

音楽の持つ力、これってみんな知っているけど誰も説明できない、アインシュタインもホーキング博士も解析できないモノ。

私は、25歳からずっとインテリアデザイナーとしてやってきて、ひょんなきっかけで、今音楽関連の仕事をしていて思うことは、音楽の持つ強烈なメッセージ性と圧倒的な粘着性は、どんなモノよりも強く普遍的で、決して無くならないということ。

だから本当に魔法だと思う。

デザインも、クライアントやカスタマーに喜んでもらえる素晴らしいモノだけど、それは物質的なモノとしての喜びで、 音楽はたとえそれが誰かのモノだったとしても、誰でも何人でもその瞬間ハッピーにしてくれる、そんな魔法のアート。

そんな魔法のアートが詰まった『はじまりのうた』、Amazon PrimeやNETFLIXでも配信中ですので、まだ観ていない人は是非観てください!

 

 

 

ぶん / Noboru