レコードプレーヤー一体型Hi-Fiスピーカーシステム LX-TURNTABLE レビュー

2020年9月、maide in Franceの本命オーディオブランドLa Boite concept / ラ・ボワットコンセプトが日本に本格上陸しました。

このブランドは、1936年にマリー・カニャールによって設立されたフランスの老舗オーディオメーカー ”シアレ” から独立し、その伝統とノウハウを3代目のティモシーが現代オーディオに進化させるため新たに立ち上げたブランド。

当時女性に対し露骨に偏見があった時代に、マリー・カニャールの革新的な商品開発と経営手腕でシアレはフランス最大のオーディオメーカーへと成長し、彼女自身もオーディオ業界の象徴的な存在になったそう。

そんな華麗なる一族の3代目テイモシーの時代はオーディオ業界の過渡期で、音源ソースもレコードからカセットデープへ、更にMDを経てCDに変わり、遂にクラウドという無形なものとなって、接続方法も有線接続から、ワイヤレス接続へと目まぐるしく移り変わっていった時代。

そこでティモシーは生き残りをかけて、80年間培われてきたスピーカー作りのノウハウと技術に最先端のテクノロジーを融合させて、ピュアオーディオの性能を洗練されたデザインのコンパクトな一体型スピーカーに詰め込むというブレークスルーをもたらしました。

それを具現化したプロダクトが、フラッグシップ機の”LX”とCUBE。そして、昨年イギリスのガジェットコードブランド『NATIVE UNION』とのコラボレーションモデルとして加わったのPR/01

現在のレギュラー商品としては他にも数種類あるけど、日本ではこちらの3モデルのみの展開です。

そこで今回先ずはラ・ボワットコンセプトのフラッグシップモデルLX-TURNTABLEを紹介してみたいと思います。

 

 

レコードが聴けるフレンチファニチャー

LX-TURNTABLE(ターンテーブル)の特徴を一言で表すと、レコードも聴けるとてつもなく音の良いフレンチファニチャー。

ラボのあるフランスとスペインの国境付近に位置するバスク地方の天然木材を、丁寧に加工して作られたビンテージ感の塊のような高級家具品質の仕上りと、このモデルを象徴する脚のフォルムは、素朴な中にそこはかとなくエレガントさを感じさせ、ジャンヌレやペリアンの家具のようなデザインを連想させます。

これもフランスのデザイン文化なのでしょうか。彼らの師匠コルビジェを通じたバウハウスのシンプルな力強ささえ漂ってきます。オーディオっぽい家具なのか、家具っぽいオーディオなのか。何にしても、機能や質感が最高レベルで調和されてることは疑いようがありません。

これまでもスピーカー内臓型レコードプレーヤはいくつもありましたが、このLX-ターンテーブルはそれらとは全く次元が異なることはすぐにわかりました。

それもそのはずレコードプレーヤーに単にスピーカーを付けたのではなく、HI-FIステレオスピーカーシステムに専用のアナログレコードプレーヤーを移植したわけですから。

そのため、あまりの重低音の共振動でレコードプレーヤーの針圧が変わらないようにスプリングを付けてショックアブソーバーにしたほど。

移植したレコードプレーヤーに至っては、同じフランスの老舗オーディオブランドElipson製のターンテーブルをLX-ターンテーブル用に再設計した専用アナログプレーヤー。

こんなコラボが実現できるのも、最高レベルの性能をコンパクトな一体型オーディオに詰め込むというラ・ボワットコンセプトの信念と、これまての伝統と実績の賜ですね。

工場出荷時では針圧を1.5に設定していますが、私的にはもう少し重い感じが好きなので1.6gくらいがちょうどいいですね。この辺りは好みですので調整してみてください。

ちなみにこのカートリッジは、ortofon OM10なので、1.25g~1.75gが適正範囲です。

 

突き詰めれば、振動を発生させるスピーカーシステムの上に、デリケートなターンテーブルを置くことは本来タブーでしょうが、そもそもピュアオーディオのように、オトを聴くことに心血を注がなくてもHi-Fiの高音質を気軽に楽しめることを目的としているので、そんなに神経質にならなくてもちゃんと針圧調整さえすれば、音ブレ無く堪能できのがこの機種の最大のメリットです。一応試してみたところ、音量を上げて周りを歩いたり走ったりしても針が飛ぶ様なことはありませんでしたね。

 

 

“God is in the detail”  神は細部に宿る

一見するとあまりにも自然なので見過ごしがちですが、よくよく見ると細やかなところにとても気を配って丁寧に作られていることがわかります。

脚はウォールナット無垢材を丁寧な止め加工で繋ぎ合わせ、クリアウレタン塗装を3分ツヤでコーティングした上品で落ち着きのある仕上げ。さらに、だらしなく見えがちな電源コードを隠す溝まで掘られている気の配りよう。


TOPの天板の高さは、キッチンとほぼ同じ高さの79cmなので、レコードーをかけるときに丁度いい高さです。

 

TOPの天板は合板に天然ウォルナット材を練り付けた突板を圧着。ターンテーブルが載るTOPは、デリケートな部分なので反ってくる可能性がある無垢材より合板の方が向いています。

 

下部に1枚マットブラック仕上げられたに棚があって、LPを立て掛けられるようになっているのも気が利いていますね。しかもちゃんと転び止めが付いているので、崩れ落ちる心配もなく、日頃よく聴く数枚をストックしていくのに便利です。

 

操作部分はアルミ材で形成され、ツマミは適度な重みで安心感かあり正確に調整できます。

ボタンは、左からスイッチ&ボリューム、Blutoothベアリングボタン、AUXボタン、PHONO、オプティカル、USB、ヘッドホン端子と機能を集約したドッグ。

 

ツマミは、左がボリューム、右が低音の調整用。

でも、なぜ高音の調整ツマミがないのでしょう.....
これは、多くの人が低音を調整したがる傾向にあり、その際高音も変えるとどのスピーカーでも歪みが出てしまうケースが多いのだとか。そのためLXターンテーブルには、インテリジェンスベースアンプが別途装備され、低音の調整に合わせて自動的に高音を最適な状態にしてくれるという嬉しい機能が備わっています。全くイコライジングできないのはいやだけど、全て好みに調整できるというのも実際のところベストかどうかよくわからないのも確か。その点、低音さえ自分の好みにすれば後は最適にしてくれるのは安心できていいなと感心しました。

 

そして、ターンテーブル一体型天板を上げれば、接続用ターミナルが顔を出します。ターンテーブルと本体のスピーカーは有線接続ですので安心です。

3.5mm AUX端子、OPTICAL(光)端子、USB DAC端子、USB端子 ×2が備わっていて、接続の種類については、ラ・ボワットコンセプトの説明によると、今後しばらくの間オーディオとして利用される可能性の高い全ての接続端子を装備したのだとか。

電子機器のアキレス腱とされるコネクト方式は電子機器のアキレス腱とされるところ。

規格や形状が変われば、また余分なアダプターを咬まさなければならず面倒だし、その分音質も劣化しますからね。

 

ドライバーの収まりもスマートで、どこをとってもトゲトゲしさがなく、優しい肌触りなのに頼もしい。ミースファンデルローエの「神は細部に宿る」の名言を再認識させられる収まりです。こういった人の手に触れるモノとしてのこだわりが、ピュアオーディオの神経質そうでとっつきにくい機械というイメージを一転、素敵なビンテージ家具のように空間に自然と溶け込んで、それでいてインテリアとして主役を食ってしまうほどの存在感を放つLX-ターンテーブル。ピュアオーディオをパパだけのものから家族みんなで使えるモノに変えた、希少なスピーカーシステムではないでしょうか。

 

 

グルメな星付きオーディオ

実際にLXターンテーブルでレコードを聴いてみると、音の一粒一粒が調和しながら結合し、諧調豊かな音色に濃密できめ細かい連なりを感じつつ、録音時の状態を忠実に再現している素直な音という印象を受けました。耳では聴きとれていないはずの何か温かさとか優しさのようなものに自然と呼応する感覚を覚えます。

一方Bluetoothを再生してみると、明瞭で輪郭がはっきりとした音像を感じます。

元々Bluetoothは、マスター音源を圧縮したデジタルデータですので、レコードよりも遥かに録音の情報量が少なく、そのため雑味(録音時の全ての音)の混じったレコードに比べ、視聴上必要ないと判断された周波数はカットされていますので返ってハッキリと鋭角的に聴こえるのです。料理もそうですが、昆布とかつお節で出汁をとって、雑味を取り除くとすっきりとした旨味を感じますが、旨味だけでなく、そこにわずかなえぐみや雑味が混ざっていた方が味に奥行きを感じるのも確か。

スッキリとしたデジタル音と、深みのあるアナログ音。

どちらも味わうことのできるグルメなLXターンテーブル。まるでミシュランの星付きレストランのようなオーディオだけど、予約しなくてもいつでもシェフズテーブで味わうことができるとすれば、最高の気分ですよね。

 

 

アナログスピーカー技術で作るデジタルスピーカーで至福のカオスに没入する

 

このLXターンテーブルのスピーカー構成は、TOPにトゥイーターが2基と、正面にミッドレンジドライバー2基、底面にバスレフ・ウーファーが1基備わったステレオ4.1chで、総出力は315Wと大迫力。

特にTOP両サイドに設置されたトゥイーターは、内部にアルミ製凸型ディフレクターを備え高音域を背後の壁面に向けて45°の角度で発して、天井に音をバウンスさせることで3Dサラウンドサウンドを実現するWide Sound 3.0という独自の特許システムを採用。

 

のため、高音域は上から降り注ぎ、中音域は前面からダイレクトに発射され、重低音域は底面から下腹部にドンと響く感じで様々な方向から立体感のあるサウンドに包まれるので、驚くほど音場の広さを感じてオトに没入する感覚を覚えます。まるでオトに支配されるようで、もっと天井の高い部屋で思いっきりボリュームを開けてミラーボールを回しながら「Supernature」を聴いてみたくなりました。70年代後半から80年代にかけてのフレンチディスコのパイオニアCERRONE往年のヒットナンバーのレコードを、フレンチオーディオで聴くと、当時ろくに大学にも行かず毎日六本木のカレー屋みたいな名前のディスコでバイトしていたのを思い出しますね。

バイト代はマクドナルド以下でしたが、バブル限定「ワンレン&ボディコンのセットとスマイル」懐かしいです。

すみません。つい興奮して脱線してしまいました。

 

こんな家具のような音楽再生装置を作ったティモシーの振り切った考え方には脱帽ですが、80年間培われてきたアナログオーディオ製作の歴史があったからこそできる裏付けがこのブランド最大の魅力です。今なおスピーカーの筐体といえば木材を使用するのが一般的ですが、良質の木材が音質的にも視覚的にも造形的にも素晴らしい影響を及ぼすことを知識として知っていて、尚且つその扱い方を熟知しているカニャール家の血筋だからこそできる技です。

このLXターンテーブルでは、その技法が随所に散りばめられテクニカル面でも、いかに一体型ボディから包まれるような拡がりのある音を出せるかを徹底的に研究し、オリジナル性にこだわり追求した結果の産物なんだと納得しました。そんな他の一体型スピーカーシステムとは次元の違うサウンド体験が誰でも簡単に味わえるのです。特段知識がなくても味わえてしまうことが本当に驚きなんです。

ウンチクなどなくても誰でも気軽にいつでも楽しめる極上のサウンド。安らぎに満ちた上質な空間。おいしい料理においしいワイン。目の前の大切な人。そんな至福のカオスに本気で没ってみたくなる特別な1台です。

 

ぶん : Noboru