映画 007 / ノー・タイム・トゥ・ダイ を観て想うこと
世界中で公開が待ち望まれた映画『007 / ノー・タイム・トゥ・ダイ』。
実は日本公開直後に書いたブログですが、レンタルも始まったようなのでアップしようと思います。
15年間続いたダニエル・グレイグが演じるジェームズボンド最終章の本編は、007の題材になりそうな世界的パンデミックによって約2年間公開が遅れましたが、やっと観賞することができました。
当然作品への期待値も高く、緊急事態宣言解除直後に観にいった渋谷の映画館は満席でした。来館者も若い人たちが多く、ショーン・コネリーやロジャー・ムーアが演じた往年の007のような、渋みのあるダンディーでユーモアがあってスマートなスパイ映画より、ダニエル・グレイグ・007のワクワク、ドキドキするスタイリッシュでセクシーなアドベンチャー映画の方が、エンターテイメント的に映像や音質が各段に迫力のある映画館に向いていて楽しいのでしょうね。
ただ本来の007映画は、ミッション・インポシブルのような派手なアクションが展開するハリウッド映画とは趣の違う英国映画ですが、『007 / カジノ・ロワイヤル』でアストンマーティンDBSを7回連続で転倒させてギネス認定されるなど、ダニエル・グレイグになってからは、それなりに緊張感のあるアクションシーンが多くなりましたね。
ただ、今回の「007 / ノー・タイム・トゥ・ダイ」、ガジェット好きな私にとって、あまり近未来ガジェット(秘密兵器)が登場しなかったことが少し残念でした。
「007 / 私を愛したスパイ」に登場したロータス・エスプリS1のようなど肝を抜く秘密兵器を期待していたんですけどね。
どうやらダニエル最後のボンドは、兵器やガジェットよりも人間として悪に対峙していく、ヒューマンで敢えて泥臭い物語にしたかったのでしょう。
ちなみに今回の秘密兵器は定番の腕時計型ガジェットで、オメガ シーマスターのダイバー300M 007エディションが使用されていました。
電気回線をショートさせ、あらゆる電子機器を破壊するというガジェットで、地味ですが破壊力は抜群でした。
何と007エディション、オメガのレギュラーコレクションにも加わったそうです。チタンベルトとのコンビネーションがかっこいいですね。
さらに007になくてはならない劇中の車も、本作はアストンマーティンDB5や、V8サルーンなどクラッシックなコレクションで、演出として世界150台限定のスペシャルモデル「Valkyrie / ヴァルキリー」をチラ見せしていたり、衣装もトムフォードですが、コーデュロイのカジュアルスーツとタキシードなど、カジュアル&モダンな表現からも、ダニエル・グレイグの終焉と共に、007のヘリテージから新たな007像への転換としての作品に仕上げたのだと思いました。
そういった意味でも、いつも注目を浴びる007の主題歌を歌うアーティストに、007史上最年少、また自身も18歳で史上最年少のグラミー賞主要4部門を制覇したビリーアイリッシュが起用されたことも、型に嵌らないこれからの007作品の若返りの予兆に感じました。
今回、本作品で往年の007作品から大きく変革したのがダイバーシティ。ダニエルが007を現役引退し、ジャマイカで穏やかな日々を送っていた時、ダニエル後の007を襲名したのが何と黒人女性エージェント"ノーミ"。演じたのはイングランド出身の女優ラシャーナ・リンチ。
ノーミは少し生意気だけどダニエルをリスペクトする強く賢明なエージェント。彼女は、自身が言う通りの「女性はあらゆる意味で強く、 最高にカッコいい」00エージェントを演じていて、今後の007のジェンダーレスな可能性を示唆してくれるキャラクターでした。
もしかすると、もう007は高級スーツを纏い、スマートでスーモラス、力強く華麗に女性をエスコートする超人的な英国紳士とは限らないのかも知れませんね。
女性といえば、007映画に欠かせないボンド・ウーマン。今回は最後を彩るにふさわしいフェミニンでしかも強くかっこいい女性スパイ”パロマ"役を演じたアナ・デ・アルマスのキャラクターがいいエッセンスになっていて、短い登場時間でしたが見入ってしまいました。
キューバ出身の彼女らしいコミカルでリズミカルなキレのあるスタイリッシュなアクションと、呑気な天然キャラとのギャップが、007映画特有のユーモアをちゃんと引き継いでいて、個人的に大好きなキャラクターでしたね。
さらにダニエル・グレイグ版ボンドの最後のボンド・ウーマン "マドレーヌ・スワン" を演じたのは、フランスの女優レア・セドゥ。
この映画で、これまでのボンド・ガールの呼称から「ボンド・ウーマン」に変更されたことからも、キャリー・ジョージ・フクナガ監督は、マドレーヌをボンドと対応な強い女性像として描きたかったそうです。
実は彼女、映画界の超大物フィクサーの家系に育った令嬢という超セレブ女優なんですが、そんな派手さを微塵も感じさせない素朴さが魅力的でした。
こうしてみると、この『007 / ノー・タイム・トゥ・ダイ』ではキーになるキャラクターに多くの女性を起用しています。やはりダイバーシティを意識しているのでしょうが、007ではこれまでイギリスの女王陛下や英国諜報部MI6のボス・Mなど、特別な権力を持つ女性像があり、どんなにタフで仕事のできるすぐれた男性でさえ逆らえないという象徴でしたが、本作では女性をもっと身近で自立した強い存在というイメージにシフトしたのだと感じました。
本作でのボンドの敵は、これまで宿敵として戦ってきた組織「スペクター」に加え、そのスペクターによって幼少期に両親を殺害されたため、スペクターへの復讐に燃えるテロリスト”サフィン”。
レミ・マレック演じるサフィンは、ナノボットという特定のDNAを持つ人にのみ感染し殺害する、という細菌化学兵器を持ち人類滅亡を企む殺人鬼。しかし、どこか掴みどころのない謎めいた特異なキャラクターで、これまで国家をもってしても壊滅できなかったスペクターを難なく仕留めていくほどの強敵。それなのにボンドが彼を打ちのめすシーンが呆気なく、もう少し凝った演出があっても良いのにと感じました。
本編がそれぞれの人間性にフォーカスし、特に初めて父親となった人間臭いボンドを情緒的に描いた感動的なラブロマンスだっただけに、クライマックスはこれまでのスキのない完璧なスパイ、ジェームズ・ボンドの集大成の戦いぶりを見たかったなと心残りでした。
とはいえ『007 / ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、シリーズ最長の163分という上映時間ですが、どうしても乗り越えることのできない困難な問題と、そこにとても大きな力が働き、誰にもどうすることもできない状況下で、ボンドが死を選ぶしかないということに説得力を持足せるには些か時間が足りなかったようです。
最後に、Mがアメリカの小説家ジャック・ロンドンの言葉からの引用したボンドへの追悼の言葉が印象的で、この映画で伝えたかった「Time」についてはっきりと表現されていました。
「人間は、存在するだけではなく、生き抜くことで、本当に人間といえる。私は、日々をただ無駄に過ごすのではなく、自分の時間(my time)を生き抜くのだ。」
ボンドはこれまでMI6の007というエージェントとして存在してきただけでなく、一人の人間として自身の人生を生き抜いてきた、それが『007 / No Time To Die 』の意味する「死んでいる場合ではない」すなわち、いつまでも誰かの心の中で生き続けていくという意味だったのでしょうね。
映画を観終わって、気になる点もいくつかありますが、全体的にとても満足できる映画でした。まだ観ていない方は、是非観て欲しいと思います。
エンドロールの最後に現れた、”JAMES BOND WILL RETURN” の文字。
2006年、ジェームズボンド役にダニエル・グレイグが抜擢された当初、ブルーアイが往年の英国紳士たるジェームズボンドらしくないとかなり批判されていましたが、結果的にシリーズ最長となる16年間も続いた歴代最高のボンドと称されましたし、私自身もショーンコネリーか、ダニエルグレイグか迷うところです。
さて、そんな素晴らしいボンドの次期〝殺しのライセンス〞を与えられるは一体誰なのでしょうね。
個人的にはガイ・リッチー監督作品 "コードネーム U.N.C.L.E" で演じたヘンリー・カヴィルのキャラが似合ってると思いますが、如何でしょう.....
今から楽しみですね。
そんな素晴らしい『007 / ノー・タイム・トゥ・ダイ』ですが、大迫力の重低音が持ち味のスピーカー"PR/01"で鑑賞するのがお奨めです。
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ビリーアイリッシュの歌声が心に染みました。
ぶん / Noboru