チボリオーディオ(Tivoli Audio)の新製品 MODEL ONE DIGITALのレビュー
17年の歳月を経てついにニューモデルが登場。チボリ ファンが愛し続けたModel Oneの後継機種、Model One Digital(モデルワンデジタル)が8月30日に日本で新発売されました。
デジタルラジオ・スピーカーの決定版
至極のHi-Fiオーディオの始まりはラジオだった
まずは外観のデザインから
パッと見たところ木製キャビネットは多少薄くなり、ソリッド感を増しましたが、これまでMoel One(BT)の個性であった、大きなチューニングダイヤルと小さな2つのツマミが、アルミ削り出しのベゼルとツマミに変わっています。
懐かしいサンスイ AU-a907プリメインアンプのボリュームダイヤルの重厚な操作感にはおよびませんが、Model One Digitalが機械なんだと思わせるに十分な精巧さを感じさせてくれます。
それに今やタッチ式やスイッチにおされ、完全にマイノリティーとなったツマミやダイヤルは、リーバイス501ビッグE なみに希少なパーツです。
このようにアルミやファブリックを使うことで、よりモダン家具っぽいオーディオらしからぬ佇まいになったという印象を受けるとともに高級感も増しました。
カラーは、ウォルナット/ベージュ、 ブラック/ブラック、 ホワイト/グレーのモダンな印象が強い3色展開となりました。
長年アナログにこだわり続けてきたTivoli Audio(チボリオーディオ)も、これまでのModel One BTが高音質にこだわったテーブルラジオのマスターピースだっただけに、これを超えるプロダクトを作るのは容易ではないことは誰もが感じていました。
それだけにModel One DigitalのデザインがModel One (BT)のイメージをうまく踏襲しつつ、その個性を違和感なく現代に蘇らせたことには脱帽ですし、その仕上がりの美しさに、デザイナーのModel One BTへのリスペクトを強く感じます。
音質について
Model One BTとは音質が大きく変わっています。背面にウーファーが付いたことで、重低音が響き迫力が増して音に厚みがでました。
元々Model Oneは高音質の卓上ラジオとして開発されたので、パーソナリティーの声を鮮明に伝えるよう設計されていましたが、Blutoothの普及とともにスピーカー使いとしての機能も求められるようになりました。
そこで高性能スピーカーへの変化を語る上で、核となるModel Oneについて整理しましょう。
まずは、その原型となったモデルです。
この進化を見てわかる通り、デザインの骨格は変わっていません。それほどまでに完成されていたデザインだということの証です。
このようにModel One Digitalの歴史は52年前までさかのぼり、ものすごく音質のいいラジオからのスタートだったことがわかります。
その歴史の張本人がエミー賞の最初の受賞者の一人で、CEA(全米家電協会)の殿堂入りを果たしたオーディオ界の巨匠ヘンリークロスです。
ここでTivoli Audioの生みの親、ヘンリークロスについて触れておきます
ヘンリークロスはトム・クルーズ主演映画「レインマン」でダスティン・ホフマン演じる、自閉症でサヴァン症候群のレイモンドのような症状があったそうです。レイモンドは超人的な記憶力をもっていましたが、サヴァン症候群患者には、ある特定のことに対して超人的才能をもつ人が多いのが特徴とされています。事実ヘンリークロスもオーディオに関して天才的な才能があったことに疑いの余地はありません。
しかし、残念ながらヘンリークロスはTivoli Audioを設立後わずか2年後に自宅の階段から落ちて他界しました。
今では彼の功績から、Model Oneはヘンリーの遺作としてファンの間では別格となっています。
ヘンリークロスの作品
ヘンリークロスが開発したスピーカーは、アコースティック・サスペンション方式。気密性の高いスピーカーキャビネット内の空気の弾性をサスペンション(スピーカーのダンパー)として利用し、その上、内部を吸音材で充填することで低音の再生限界値を低い状態で維持することができます。AR-3はその代表作として有名です。
また、同時にバスレフ型でもありました。これはスピーカーコーンの後部から出た低音をダクトで反転させて、正面から出る音と打ち消し合わないように排出することで豊かな低音を再現することが可能な方式です。
そのため、柔らかく温かみがあり、しかもクリアな高音域と厚みのある中高音域に、迫力のある重低音が備わったバランスの良い音を鳴らすことに成功しています。
とてもアナログな技法ですが、最も自然な音を再生してくれるのもアコースティック・サスペンション方式なのです。
こうしてみるとヘンリークロスがこだわる音質には、空圧を利用するためにある程度の体積が必要です。
そのため歴代のモデル同様、このModel One Digitalも横幅222mm 高さ115mm 奥行140mmというサイズなのです。
最近では薄くて小さなスピーカーをよく目にしますが、どうしても音の厚みに不満が残るのも事実。
それに比べてほとんどのTivoli製品が、音の出力に空気を利用するとても古典的な手法を貫いていますので、より生音に近い厚みのある音が特徴なのです。
Model One Digitalの機能はどうなの?
それでは機能についてはどう変わったのでしょうか。その名の通り、ラジオのチューニングがアナログからデジタルに変わったことに加え、大きなトピックとしてはWi-Fi対応機能が備わったことでしょう。もちろんBluetoothにも対応していますのでWi-Fi環境がなくても困りません。
ただ多くの人が、Wi-FiスピーカーとBluetoothスピーカーとの違いについてはっきりと理解されていないのではないでしょうか。
実はWi-FiとBluetoothでは大きく違うのです。その違いを一覧にしてみましたので比較してみてください。
Wi-FiとBluetoothの違い
どうですか?
音質で言えば圧倒的にWi-Fiに軍杯が上がります。Wi-FiだとCDレベルの音質で聴くことができますが、Bluetoothではなんと1/10にも圧縮されてしまうのです。
またBluetoothはひとつのスピーカーとしか接続できないのが特徴です。
もはやCDを買う必要もなく、今までのように楽曲でスマホの容量を占領される心配もない。お気に入りの月額定額制ストリーミングサービスに契約して、Wi-Fi環境下でいつでも好きな音楽をCD音質で楽しむことができるし、もしWi-Fi環境がなくてもスマホの4G回線を使ってデザリングで接続も可能となれば。
確かに便利です。ストリーミング
Wi-Fiのメリット
あまりピンとこない方も多い複数スピーカーの用途についてですが、意外と面白い使い方ができます。
先行で発売されていたARTシリーズのCUBEやORBとWi-Fiで接続すれば、同時に複数スピーカーをスマホの専用アプリで自在にコントロールできてしまいます。
夜、リビングでAmazonプライムの「ワイスピ SKY MISSION」を観たい場合、それぞれの部屋のCUBEやORBをリビングに集めてウーファー(新発売予定)を絡めて一同に鳴らせば、大迫力サラウンドで臨場感のある立体サウンドを楽しむこともできてしまうという。
さあ、5分以内で即興のホームシアターの完成 !
しかも無線だから配線の煩わしさもありません。これは今までにない新しいスピーカーの使い方ですね。
とても簡単に無線で5.1チャンネルを設置でき、また6.1や9.1チャンネルへと増やすことも可能です。
ARTスピーカー以外のデバイスには、別売りのCONXを使えば有線で接続できます。
複数接続が可能なARTスピーカー (CUBE, ORB)
CONXの詳細はこちら
またWi-Fiはホームパーティでも大活躍です。
日本ではあまりホームパーティーの習慣がありませんが、欧米では頻繁にホームパーティーを開催します。
そんな時に複数のARTスピーカー(CUBEやORB)で室内外問わず無線で接続し、しかも1台のスマホで全てを自在にコントロールすることができるのはとっても便利ですよね。
その上、ストリーミング音楽配信サービスを使えば、楽曲選びやCDの交換などの煩わしさや音切れの心配もありませんので、あなた自身もパーティーを存分に楽しむことができます。
Wi-Fiのデメリット
そんな便利なWi-Fiにも弱点はあります。
まずWi-Fi環境が大前提ですのでWi-Fi環境が整っていなければ、単なる単体Bluetoothスピーカーとしてしか利用できません。
スマホがあれば4Gでの対応も可能ですが、データ通信に限りがありますし、スマホの充電時間が限られているという制約もあります。
また、Wi-Fiのセッティングやコントロールはアプリで行うので常にスマホが必要です。
うっかりスマホを忘れたり、充電切れだった場合にはたちまち音楽も聴けなくなってしまうのです。
ただし一度設定してしまうと、次回からは設定は必要ありません。また、スマホがなくてもラジオは聴くことができます。
スマホの扱いが不慣れな人や、Spotifyなど定額ストリーミングサービスを受けたくない方、余計な手間が面倒だという人には向いていないかもしれません。
ただ、AppleのMACやiphoneがそうだったように、デバイスからはどんどん接続端子がなくなってきています。当時は戸惑いもありましたが慣れてくるとストレスなく使えてしまうのも私たちの順応性の成せる技。
今後は、より簡単に扱えるよう日々アプリの改善が進んでいくはずですから、あまり心配する必要はないかもしれません。
Model One digitalのワイドFM
その他の機能としては、76.0~108.0KHzのワイドFM対応。主要AM局もFM電波で聴くことができるのでとてもクリアな音質です。
今まで聞いていたノイズ混じりのパーソナリティーの声が臨場感あふれたものになり、その存在をとても近くに感じることができます。
海外ではすでにデジタルラジオへの移行が進み、DAB+というデジタル規格製品がほとんどですが、日本ではTV放送がようやくデジタル放送になったばかりで、まだラジオのデジタル放送までには時間がかかりそうですね。
また東日本大震災の際には、被災地の方々の情報取集手段が電波ラジオしかなかったという事実からも、地震大国の日本ではなかなかオンリー・デジタルとはいかないのではないでしょうか。
Model One digitalの専用アプリ
ただし、日本では今のところSpotifyしか利用できまない状況ですので、日本での各社のサービスのスタートが今後楽しみです。
インテリアとしてのオーディオ
さらにもう一つModel One Digitalの魅力として、そのミニマムなデザインによるインテリアとの親和性にあります。
プラスチックを多用している昨今のオーディオは、どうしても家電製品の匂いがしてしまいます。その点ウッドで包まれたModel One Digitalは誰が見ても他のオーディオと一線を画する存在であることは間違いないでしょう。
ブックエンドのように本棚に置いてもいいし、オブジェのようにさりげなく置くのもかっこいい。
私の場合、あの大きなベゼルをつい触ってしまいたくなるので、ソファのサイドテーブルに置いています。それに時計も表示されるので便利です。
モダンなインテリアにも、クラッシックにも、オリエンタルや和室にも、どんなスタイルにもフィットする素晴らしいデザインだと思います。
POPアートの絵画や、若い男女が裸で戯れるフォトグラフィー、アフリカの木彫りのオブジェのようなアート作品同様、その存在自体がアートとしてあなたのお部屋の個性に変わるでしょう。
そう考えるとオーディオというよりは、音の出る手頃なアート作品なのかもしれません。
アート作品のような佇まい、芳醇な音、魅惑の拡張性
ここまで色々とModel One Digitalについて語ってきましたが、Model One Digitalはそれ自体がとんでもなく音のいいスピーカーで、そこにワイドFM(AM放送がFMで聴ける)ラジオが搭載されたシンプルなオーディオです。
その細部までこだわったデザインは、もはや作品のような存在感を醸し出し、思わずそれ単体で飾ってしまいたくなるほど。
さらにヘンリークロスのもっともこだわった音質はしっかりと受け継がれていて、より厚みを増した音質はいわゆるドンシャリとは無縁の上質なサウンドです。それほど空圧音質が素晴らしく、気を抜くとこのオーディオがモノラルだということをすっかり忘れてしまします。
ここでモノラルと聞くと、ネガティブに感じる方もいらっしゃると思いますが、コンパクトオーディオの特性として、そのサイズからステレオにする意味を感じません。
それに、有名無名問わず実は多くの製品がモノラルだったりします。
これらはメーカーが敢えて公表しないから知らされていないだけなのです。
しかし、昔と違いこのModel One Digital同様モノラルも素晴らしい音を鳴らします。
それでも、やっぱりステレオが良いという方のためにCUBEやORBなどのスピーカーを増設する楽しみも残しているところが憎いですね。
その上、今後発売されるウーファーやCDデッキなどとの接続も可能となることや、すでにお持ちの他ブランドのスピーカーやCDデッキ、テレビなどのデバイスをWi-Fiでつないで楽しむこともできる拡張性の高さがこのモデルの魅力を一層引き立てています。(その場合はCONXが必要です)
これが俗にいう拡張沼。一旦片足突っ込むと抜け出せなくなるというアレです。
それらも含めて楽しむのがオーディオの面白さだったりします。
最後にこのオーディオについてまとめると、音創りはアナログ、機能は最新のデジタルテクノロジー、それにラジオがついたハイブリッド・オーディオということになります。
デジタルオーディオに抵抗を感じている方や女性も、デザイン性の高い忠実な再現力を誇るModel One Digital、是非手にしてみてください 。
ぶん / Noboru
NEWモデル
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