【新製品レビュー】GENEVA『TouringS+』ビンテージ感溢れるポータブルラジオスピーカー
2019年2月、スイスのHi-Fiオーディオ・ブランド GENEVA/ジェネバから『Touring S+ / ツーリングS+』がリリースされました。
幾度のハリウッド映画アカデミー賞"サウンド部門"の受賞歴を持つサウンドエンジニアリング・チームを率いるジェネバ・ラボが製作した、渾身のポータブル・ラジオスピーカーがやっと日本に上陸したので早速レビューしてみます。
デジタル&ビンテージ
最新が最良のデジタル機器において、そもそもビンテージという概念はありません。
機械式時計や機械式カメラと違って、Appleウォッチやデジカメが将来今以上の価値になるかって言えば多分ならないでしょうし。
良くてもせいぜいオブジェとしての鑑賞用になるだけかな。
そんなデジタル時代にも、1950年代〜70年代に世に出たパーマネント・プロダクトの多くが、今尚デザインのお手本として現代に強く影響を与えています。
このツーリングS+も、その影響を受けたモノのひとつ。
ツーリングS+のデザインにはユニークさや派手さは感じませんが、デザイナーのイヴァンによると、1950年代の発売以降我々を魅了して止まないLEICA M3のオマージュで、1970年代にディター・ラムスがデザインしたBRAUNのオーディオ・プロダクトにインスパイアされたのだとか。
だからなのか、普遍的な『質』を感じますね。しかも上級な質を。
近年、高性能なプラスチックプロダクトが蔓延る中、やっぱり触ってずっしりと質量を感じるモノって純粋に惹かれますよね。
このツーリングS+も中身は最新のデジタル仕様だけど、デザインはビンテージ感溢れるのにどこか洗練されていて、レトロとは違う.....何て言うか、うん、アウトスタンディング ワンって感じかな。
生涯現役だぜっていうやつね(笑)。
もの凄く小さなパンチングメッシュの奥のLED。
このアナログっぽいデジタル表示が「2001年宇宙の旅」みたいで唆られるんですよね。
外 観
どうですか、イメージはまさにLEICA M3のそれですね。
エンクロージャーは全てアルミの削り出し。仕上げはLEICA M9を彷彿させるスチールグレー・ペイント。LEICA M3のシルバーはクロームだけど、これはペイント仕上げね。
ちなみにこの写真のコニャック色は、2003年に限定発売されたLEICA MPのエルメスとのコラボモデルに因んだもの。
左からコニャック、ブラック、ホワイト、レッド
4色のカラバリも吊るしなんだけど、何となくビスポークっぽくて上品な感じですね。
M型LEICAには通常シルバーとブラックカラーが存在していて、このツーリングS+にも同様にブラックペイントが用意されています。
ただしブラックペイントは、ボトムも同色のオールブラック仕様のみなんです。
残りのレッド、ホワイト、コニャックの3色はTOPがシルバー色なんですが、よりビンテージ感をそそるのはこっちかな。
その反面ブラックは、ストイックさとクールさが相まったモダンなテイストが色っぽいですよね。
CELINEやSAINT LAURENT、GUCCIとかハイファション系が好きな方はこっちね。
スペック
サ イ ズ:W17cm×D4cm×H10.5cm
質 量:1080g(本体のみ)
FM周波数:76.0~90.0MHz
連続再生時間:20時間
充電時間:約6時間
価 格:24,800円(税別)
付 属 品:USB電源コード(ACアダプターは付属していません)
必要最低限のモノしか付いていませんから、一旦ラジオ局を登録すれば、次回からはBluetoothかラジオの選択ボタンを押すだけです。
ラジオ
ツーリングS+は、先に発売されたツーリングXSにFMラジオ機能を追加したモデル。
だからTOPにはラジオチューニングのためのボタンが5個と、伸縮式のラジオ用アンテナが追加されました。
ボタンは左から、「プリセット」「チューニング戻し」「チューニング送り」「FM/デジタル」「Bluetooth」「ボリュームダイヤル」。
プリセットは、好きなFM局を6つまで登録するボタン。地域的な局はほぼ全て網羅できるんじゃないでしょうか。
FM/デジタルは、残念ながら日本ではデジタル非対応のため、このボタンはFMの選択ボタンとして使用します。
ボリュームダイヤルのON/OFF表記は大きくなって視認性が向上しています。
ツーリングXSでは表記が小さくて、よく誤って電源を切っちゃいますから、この変更はウェルカムですね。
格納式FMアンテナ
ヨーロッパなどではすでにFMはデジタル放送化されていますが、地震大国の日本では、震災時にインターネット回線が途絶えても、電波で情報を得ることのできるFMとAMはデジタル放送化しないのだとか。
確かに、停電だったりネットに繋がっていないと情報が途絶えてしまうのは困りますね。
最近ではテレビより、ダイレクトなメッセージ性の強い動画コンテンツやSNSの方が人気があるようですが、その意味でもSNSの起源とされるラジオが再注目されているのも頷けます。
ぶっちゃけ音楽を聴くためのスピーカーはイヤホンやヘッドホンで代替えできるけど、ラジオは装置だから買う理由はあるのかなと。
スマホでラジオを聴くこともできるけど、何だか面倒だしスマホはもっと他のことに使いたいですしね。
音 質
ボトム部分は前面がスピーカーで、背面には低音用のパッシブラジエーターが内臓されていて、表面は4色の合成皮革で覆われています。合成皮革の質感はしっとりとしていて、それなりに厚みも感じて触り心地はとっても気持ちいいです。
左:TouringXS 右:TouringS+
ツーリングXSでは、四角く切り抜かれたグリッドですが、ツーリングS+は丸いグリッドに変更されています。四角い方がスクエアな印象が強くて個人的には好きなんですけどね。
音質のテクニカル部分はツーリングXSと一緒で、中高域に関しては従来通り定評のあるとてもクリーンでウェットなキメの細かい印象です。
低域に関してはツーリングS+の方が255g重いためか、ツーリングXSに比べてより重厚に感じます。
これは恐らく筐体の重さが影響していて、内部振動が強くなったことによるパッシブラジエータ効果の違いだと思います。
因みにパッシブラジエーターとは、メインのスピーカーユニットの筐体内の空気振動を利用して動作せるスピーカーユニット方式のことで、主に量感のある低音を得ることを目的とされています。
但しバスレフ方式と比べるとコスト高になってしまうで、ポータブルスピーカーではあまり見かけませんね。
とはいえ、こんなに小さなボディにこれほどの迫力のスピーカーユニットを内臓しているわけだから、やむを得ないのかもしれませんが、低音に関しては若干篭っていて解像しきれていない印象です。
ただ通常使用する音量域では、その篭りもそんなに気にならないと思いますが、フルボリュームに近ずけると目立ってきますから、スピーカーの背後にスペースを確保することをオススメします。
まあ、このエンクロージャーのサイズと価格を鑑みると、充分納得のいくチューニングかなと。
むしろ、上位クラスのスピーカー群と比べても遜色のない高音質だと思います。
まとめ
ツーリングS+、単なる道具としてのスピーカーではなく、インテリアとしてのアート性も兼ね備えていて、マイスターが扱う精密機械っぽい職人気質的なバランス感覚は、"音の鳴る" プラスチック・スピーカーにはないオーセンティックな魅力なんですよね。
ドンシャリ音質はもう飽きた方、デザインへの拘りがギークな方、どうしても人と違うモノがいいというわがままな方にこそ使って欲しいラジオスピーカー。
但しポータブルとはいえ、防塵防滴や防水仕様ではないため、天候に関係なくアウトドアでガンガン使い倒すというモノではないことはお察しの通り。
それよりも自分だけの空間にさりげなく馴染むシンプルでプリミティブなオーディオ・アクセサリーとして、本物のビンテージになるまでずっと付き合っていきたいですね。
そうね、飾り気のないネイキッドなオーディオなんだけど、大切に飾っておきたいっていう感じかな。
ぶん / Noboru